Note

2017/11/25,26 ピアノリサイタル

 

少しずつ寒くなってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

僕はイタリアに移ってまだ日が浅いですが、毎日いろんな刺激や風土を感じながら過ごしております。

今回はイタリアで生活を始めてから初めての日本でのコンサートとなります。まだまだ吸収することはたくさんありますが、少しでも学んでいること、感じていることを皆様にお届けできればと思います。

 

シューマン:アベッグ変奏曲 op.1

 

シューマン(1810-1856)20歳の時に作曲し、作品番号1が付けられている、彼にとって気合いの入ったデビュー作品です。まず、この作品はパウリーネ・フォン・アベッグ嬢に献呈されているのですが、この人物はシューマンの中の架空の人物で、実際には存在しない人に捧げられています。また、アベッグ(ABEGG)のスペルを音名にすると「ラシミソソ」となり、この作品の最初のテーマとなっています。モーツァルトやハイドンが生きた古典派の時代と比べると、音楽のルールがゆるくなってきた時代とはいえ、この作品を初めて聴いた人は度肝を抜かれたことと思います。基本的にはABEGGのテーマの主題と変奏曲の形式がとられ、後のシューマンの大作に引けを取らない存在感を持つ作品です。

 

シューマン:幻想小曲集 op.12

 

8曲からなる作品集で、それぞれに個性的な題名が付けられています。この作品に限らず、シューマンの作品には個性的かつ文学的要素を含んだ題名が多く付けられています。これはシューマンがもともと書籍関係の家に生まれ、小さい頃から文学に親しんできたことも影響しているでしょう。そしてこの作品の音楽も題名を見事に表現しており、まさに「標題音楽」と言える作品集です。ぜひ題名と照らし合わせながら、音楽を聴いていただければと思います。

 

1.     Des Abends 夕べに

2.     Aufschwung 飛翔

3.     Warum? なぜに

4.     Grillen 気まぐれ

5.     In der Nacht 夜に

6.     Fabel おとぎ話

7.     Traums Wirren 夢のもつれ

8.     Ende vom Lied 歌の終わり

 

ショパン:バラード

 

「バラード」とはショパンに限らず、現代の音楽界でもよく聞く名前ですが、もともとは「バラッド」と呼ばれる、ヨーロッパで昔から語り継がれてきた物語やおとぎ話が使われている歌が由来だそうです。(日本でいうところの琵琶法師の歌に近いものでしょうか・・・)ショパンのバラードも、ポーランドの詩人ミツキェヴィチの詩からインスピレーションを得て作曲されたと言われています。しかし、それを作品上には公表せず、あくまでバラードとして出版した点は、目に見える形で文学的要素を作品に取り入れていたシューマンとは異なります。

ショパン(1810-1849)は生涯で4曲のバラードを作曲しました。1曲だけ取り上げても美しく、演奏する側も惚れ惚れしてしまう作品ですが、今回は制作時期がそれぞれ異なる4曲のバラードを通して聴くことで、ショパンの音楽性の変化、それぞれのバラードの世界観も堪能していただければと思います。

 

1番 ト短調 op.23

1836年に出版され、シュトックハウゼン男爵に献呈。重厚な序奏から始まり、その後自由ながらもソナタ形式が使われ、美しく、また華やかに展開されていきます。最後はドラマティックに激しく終結します。

 

2番 ヘ長調 op.38

1840年に出版され、シューマンに献呈。穏やかで牧歌のような出だしで始まります。そのまま続いていくかと思いきや、突如豪雨のような激しいパッセージが現れ、この2つのキャラクターが交互に現れます。

 

3番 変イ長調 op.47

1841年に出版され、ポリーヌ・ドゥ・ノアイユ嬢に献呈。第2番のように穏やかな出だしで始まります。途中、情熱的で激しさが現れる部分もありますが、優美で上品な雰囲気を醸し出しているバラードです。

 

4番 ヘ短調 op.52

1843年に出版され、ロスチャイルド男爵夫人に献呈。第1番と似た形式で、序奏を経た後、穏やかに主題が提示されます。しかし、音楽の内容は他の3曲以上に深い部分まで掘り下げられており、ショパンのエッセンスが全て詰まっていると言っても過言でない作品です。

 

2017/3/24  西村翔太郎ピアノリサイタル(at さいたま市プラザノース)

 

さいたまでリサイタルをさせていただけること、とても嬉しく思っております。

大学院に入って2年目、修士論文もヒーヒー言いながらなんとか提出することができ、2017年3月で大学院を卒業します。(何もアクシデントがなければの話ですが・・・) そんななかで、これまで大学・大学院で計6年間勉強してきた集大成として「地元さいたまでリサイタルがしたい」と思ってきました。

今回は自分が主催者として開催する「自主公演」という形でさせていただきます。当日も僕なりのおもてなしでお待ちしておりますので、身構えることなく(笑)いらしていただければと思います。

 

当日にも詳しくプログラムに載せる予定ですが、このリサイタルで演奏する曲目について、簡単にご紹介させていただこうと思います。

 

J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV971 

 

ドイツの大作曲家J.S.バッハ(1685-1750)によって1735年に出版されたチェンバロのための作品です。(ちなみに1735年というと日本では江戸時代、徳川吉宗が将軍の時代です。) 正式には「イタリア趣味によるコンチェルト」という曲名で、3つの楽章で構成されています。

 

第1楽章 (アレグロ) ヘ長調 

第2楽章 アンダンテ ニ短調 

第3楽章 プレスト ヘ長調 

 

J.S.バッハの作品には強弱の指示が書いていないことがほとんどですが、この作品の楽譜には「f」(フォルテ)と「p」(ピアノ)が指示されています。これは音の大きさを表すものではなく、tutti(全員で演奏)とsolo(一人で演奏)を表現していると言われています。当時はチェンバロで想定されていた曲ですが、今回はフルコンサートグランドピアノ、様々な可能性を追求してみたいと思います。

 

この曲と出会ったのは小学6年生の時で、その時は第1楽章だけ本番で演奏しました。よく聴いていたグレン・グールドの演奏があまりにも衝撃で、この曲を弾くと彼のような演奏になってしまい、しばらくの間は抜けられず大変でした。(もしかしたら今もかもしれません笑) 今回、全楽章が演奏できることが本当に楽しみです。

 

ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80

 

ベートーヴェン(1770-1827)が1806年、36歳の時に作曲した変奏曲。この曲の調性である「ハ短調」というのはベートーヴェンにとって重要な調であると言われ、他にも交響曲第5番「運命」、ピアノ協奏曲第3番、最後のソナタであるピアノソナタ第32番などはハ短調で書かれています。

 

8小節という短さながら強烈な説得力があるテーマから始まります。右手のテーマはもちろんですが、左手のバスの下行型も荘厳な雰囲気を醸し出しています。その後、1変奏20-30秒ほどの変奏が32変奏続きます。一つのテーマからこれほどまでバラエティに富んだ変奏を書くことができるベートーヴェンには「参りました」と言うしかありません。

 

この作品は大学院生活最後に勉強した作品です。そしてこの舞台が「初出し」となります。演奏中は変奏の数を数えることなく(笑)、ぜひ変奏の変容を楽しんでいただければと思います。

 

ベートーヴェン:ピアノソナタ第26番 変ホ長調 op.81a 「告別」

 

1809年、ベートーヴェンが39歳の頃、彼が住んでいたウィーンがナポレオン軍率いるフランス軍に包囲されます。そのため、当時ベートーヴェンの大事なパトロンであり友人であったウィーンの貴族ルドルフ大公はウィーン退出を余儀なくされます。この作品はそんな友人がいなくなることのベートーヴェンの想いが込められていると言われています。このソナタにつけられている「告別」という名前はベートーヴェン自身によって付けられており、それぞれの楽章にも題名をつけています。

 

第1楽章 Das Lebewohl「告別」 変ホ長調

第2楽章 Abwesenheit「不在」 ハ短調

第3楽章 Das Wiedersehen「再会」 変ホ長調

 

この作品の調性である変ホ長調も先ほどのハ短調同様、ベートーヴェンにとってよく使われた調で、ピアノソナタ第4番、第18番、交響曲第3番「英雄」、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」など、誇り高き戦士のような堂々たる作品が多いのですが、この「告別」ソナタほど変ホ長調が渋く見える作品はあるでしょうか。また、この作品は中学2年生の時に出会い、大学受験の際にも演奏した大切な曲です。彼の心情、そして心の変化をぜひ味わっていただければ幸いです。

 

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

 

この作品ほど世界中で何度も演奏されている作品はないのではないでしょうか。もしかしたらピアノよりオーケストラというイメージを持たれている方が多いのかもしれません。しかし原曲はピアノ版なのです。

 

1873年、ロシアの作曲家ムソルグスキー(1839-1881)の友人であり、ロシアの建築家・画家であったヴィクトル・ハルトマンが若くして亡くなります。彼の遺作展がペテルブルクで催され、その時にムソルグスキーが見た彼の絵がこの曲を作るきっかけになったと言われています。翌年1874年に完成されました。

 

堂々たるプロムナードで曲は始まり、名前の付いた全10曲で構成されています。その一曲一曲がムソルグスキーが見た絵の世界のようです。そして曲の合間に最初のプロムナードのメロディーが時々入ってきますが、これは絵を見たムソルグスキーが次の絵へ向かう時の心情を表しているのではないでしょうか。

 

プロムナード

1.こびと

プロムナード

2.古城

プロムナード

3.テュイルリー(遊びのあとの子供たちの喧嘩)

4.ビドロ(牛車)

プロムナード

5.卵の殻をつけたひなどりのバレー

6.サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ(ふたりのユダヤ人-太った男と痩せた男)

プロムナード

7.リモージュ(市場)

8.カタコンベ(ローマの墓)

死者とともに死者の言葉をもって

9.鶏の足の上の小屋 (バーバ=ヤガー)

10.キエフの大門

 

この作品は大学4年の卒業試験で演奏したのですが、その時はただただ壮大な世界観に圧倒されていました。今回は、一つ一つの曲はもちろん、曲間の雰囲気も楽しんで演奏できればと思います。